「スマイル・ツアー」ブライアン・ウィルソン

inage282005-02-02

 
昨年9月に発売された スマイル (Brian Wilson) は素晴らしい出来だった。
再録音しただけあって音はきわめて明瞭、にも関わらず60年代のアコースティックな感触が残っていて嬉しかった。ブライアンのボーカルも、バンドのアンサンブルも良かった。ロック、ジャズ、カントリー、クラシック、教会音楽などミックスしていて分類不可能。この人は本当に効果的なポリフォニーの音楽を書ける数少ない一人だと思う。アルバムの楽曲の構成は今回のレコーディングのためにリファインしたそうだが、それはブライアン・ウィルソンが今なお現役で生のアーティストだということを物語っている。
 
そういうわけで、1/31に東京国際フォーラムに「スマイル・ツアー」を聴きに行った。構成は、ペット・サウンズ・ツアーと同様。
  
 1部:過去の名曲シリーズ
 2部:本編(SMiLE)
 アンコール
 
1部で「God Only Knows」の厳かなフレンチホルンのイントロが流れると会場は興奮。
ペット・サウンズではカールがリードを取っていたので、誰が歌うのかなーと思っていたら、なんとブライアン自身のリードボーカルだった。もちろん、往年の透明感のある声質ではなく、特にハイトーンを出すのはかなり辛そうなのだが、自分の作品に責任を持って演奏している姿が、廃人同様の生活から、ドラッグ/アルコール中毒を克服して、それを完成しなかったことが自身の破綻の原因のひとつとも言われる幻の名盤スマイルと正面から向き合い、ついにはそれを完成した事実とオーバーラップして、感動を覚えると同時に、完成度の高い作品を届けてくれたことに感謝の気持ちを覚えた。
 
ペット サウンズは自己の内面の探求だったが、スマイルはアメリカの探求がテーマであったと思う。
Heroes and Villains」から連続して演奏される「Roll Plymouth Rock」の曲の時、バックにアメリカンインディアンの絵が照らされていた。と同時に歌詞の中で、'American Indian' と歌っていたことに初めて気が付いた。”英雄と悪漢”とは西部開拓時代の白人とアメリカンインディアンのことを指しているのかなと思い、また一つスマイルのアメリカ探求のテーマを知った思いがした。
 
さて全体を通しての感想だが、パフォーマンス自体はペットサウンズツアーの方が完成度が高かったように感じた。
前半のアコースティックセットは最高で、このバンドのハーモニーの実力を堪能することができ、ビーチボーイズ最盛期に比べて決してひけは取らないのではないかとさえ思った。(もちろんハーモニーを構成する素材が違うのでテイストは違う。)ただ本編のSMiLEが、演奏が難しかったのか、リハーサルが充分でなかったのか、日本のオーディエンスに対して集中力が持続しなかったのか、単にコンディションが悪かったか、理由は分からないが、ポップシンフォニーの繊細・緻密なアンサンブルを期待して行ったのだが、残念ながらCDを聴いたときの感動を上回らなかった。CDとライヴは比較してはいけないかも知れない。が、前回のペット・サウンズ・ツアーの出来があまりに良かったので今回も、と期待してしまったのだ。ただこれは背景や歴史を脇に置いて完全に音楽的な側面から冷静に鑑賞した感想なので、前述したように山あり谷ありの人生を考えると感動・感謝は禁じ得ないのだった。
 
メンバー紹介で、唯一の女性メンバーを紹介する時、ベーシストがロイオービソンのプリティーウーマンのイントロを弾いていた。(ドドミソシ♭レドシ♭、というやつです。)笑っちゃった。ユーモアありますね。 

 


セットリスト(2/2のものですがほとんど変わらないはず)

Surfer Girl
Wendy
Add Some Music To Your Day
Please Let Me Wonder
Drive In
And Your Dreams Come True
Your're Welcome
=> ここまでがアコースティック・セット
Sloop John B
Desert Drive
Dance Dance Dance
California Girls
God Only Knows
Forever
Good Timin'
I Get Around
Sail On Sailor
Marcella

SMiLE

Do It Again
Help Me, Rhonda
Barbara Ann
Surfin' U.S.A.
Fun Fun Fun
Love & Mercy